
text: Yosuke Matsubara
Date: 2025.09.08

『旅は道草が楽しい』
久しぶりにパスポートを使用したのは更新してすでに5年が経過したころ。
香港の入国審査をスルッと抜け、宿へと足速に急ぐ理由は、喉が渇いているからで、喉が渇いているのは韓国の空港で爆走したからである。(※ソウルマラソン当日でしたがマラソンは全く関係あらず、、)とにかく走った。話せば長くなるので割愛します。
タイトルの”旅は道草が楽しい”とは歯に衣着せぬ物言いで審美眼の持ち主・白洲正子が名著「かくれ里」で残した言葉です。
完全無欠な旅などおもしろいはずがなく、道中で何かしらのハプニングこそが旅の醍醐味と解釈してますが、白洲正子は当時、新幹線が誕生するや否や『ざまあみやがれ』と言い捨てたそうで、文明開化よりも自分の足で歩き回る日本各地の路地裏に楽しさを見出していたかもしれません。
香港での路地裏や街道筋はまさにアジアの喧騒として白洲正子の書いたことを体現していることもいま書きながら思い出しています。
さっそく道中では地下鉄の改札でカードのタッチ決済があって驚いた矢先、 『アメックスハツカエナイ』と書いてあったり、改札を潜って予約していたエアビーのスマートキーも暗証番号がついては消えるというイリュージョンが展開されたり。悪戦苦闘しながらも喉を潤せたのは宿先にフリーのミネラルウォーターが備えられてたからである。ありがたや。
香港の外の空気を肺に収めたのは暗くなる頃で入国してから2時間が経過していた。思い起こせば5年前に初めて訪れたこの土地は2回目でありデモ真っ只中でバクチクや火薬の香りが記憶の片隅に刷り込まれている。今回到着したのが日曜日ということで路上には活気に満ちていると同時に空港で両替しなかったせいで、両替所はどこもシャッターを閉じていて現金にありつけない。このままでは昼メシ抜きのフライトでランチを我慢したのに夜メシも抜きになってしまう。アジアの金融街として知られる香港も、味な店に限ってはキャッシュレスな文明開化がまだまだ浸透していない。
日常が便利になった世の中において、そうでない状況に直面すると、不便のほうが強く印象に残る。
旅先ではアナログとの距離感を適度に保つことの大切さに、あらためて気付かされる。
文明開化には多少のリスクがつきものである。白洲正子に『ざまあみやがれ』と言われている気がした。
屋台街を早歩きで駆け抜け、やっとこさクレジットカードが使えるお店にありつけたのは飲茶の時間帯が最高潮に達した日曜の夜分19時。わからない言語が飛び交い聴覚の消耗よりも脳の言語処理で疲弊しそうになったり、漢字だらけのメニューにスマホをかざしていると、店員が英語で書いてる別メニューを差し出してくれた。そうだ、この店では外国人の身分なのだ。自国では海外の人々相手に試行錯誤している毎日だがこの土地ではみんなと同じ外国人なのである。そして、Googleマップのレビューで知ったのはベジタリアン推奨の店だった。(続く)


