
text: Yosuke Matsubara
Date: 2025.09.08

『旅は道草が楽しい』
ときは、香港の喧騒から抜け出した昼下がりへと移ります。
喧騒から抜け出したとは言いつつも、各駅ごとに点在し活気のある市場は右に左にと首の運動にはもってこい。
四つ打ちの如く、トントントントンと中華包丁が肉塊に振り下ろされる光景が目の前に広がる。
八百屋の店主と目が合うと、「このアロエどうだ」「このニワトリどうだ」と腹の底から声をかけてくれる。何しろ元気で、何しろ賑やかだ。
お昼ご飯の目的は、何を隠そう刀削麺。
昨年東京で食べた刀削麺が忘れられず、本場でも気になり始めたのはだいぶ前の話。
目的地に到着したのは、ちょうど15時。
一見すると平面アルミの看板だが、角度を変えると奥行きが見え隠れする強度のあるサイン。
その立体感は、まるで刀削麺の厚みに通じるものがあるのかもしれない。
中国語のメニューに毎回翻弄されつつも、パワフルなおばちゃんの親近感に安心し始めた頃、雰囲気で受け答えできるようになるのが世渡り上手というもの。
メニューを見た瞬間に「これだ」と決め、あぐらをかいて待っていると、湯気をまとったワンタンメンがやってくる。そう、発注ミスである。
悟られないように平静を装おうとしたものの、本来の目的を果たせないことの方が悔やまれる。
外看板の左端に描かれたおっちゃんの顔がちらつき、申し訳ない気持ちでいっぱい。
気を取り直して麻辣刀削麺を追加発注。ついでにお水も頼んだら、来たのはお湯。再びの発注ミスである。
その直後、間髪入れず湯気を纏った麻辣刀削麺がやってきた。
熱々の品々を、熱々のお湯で流し込むスタイル。
15時を過ぎているにも関わらず、店内には続々と客がやってくる。
この人たちはランチ? それとも三時のおやつ? 何ご飯なのかわからない。
言うまでもなく、”ワンタンメン”も”麻辣刀削麺”も、辿り着いたその先には、切れ味鋭い至福が待ち構えていた。
胃袋からのぞきこむ香港は、とても楽しい。(続く)


